僕が「駐夫」を決めた理由

妻と結婚した時くらいから、周囲に「将来は(専業)主夫になることも考えている」ということを公言していた。8割冗談で、2割本気だった。

妻も自分も海外勤務を前提とした職に就いており、どこかのタイミングでどちらかが海外赴任を命じられた際には、単身赴任か、休職・退職して付いていくかを選択する必要があることは分かっていた。

周囲にこの状況を話すと、大方「大変だね」という反応があり、それに対して上記のように答えていた。2割本気だった理由は、妻か自分どちらかの一方しか働けないとなった場合、能力や職業等を考えると妻の方がより社会に貢献できると思ったことが一つ。加えて、家事の中心である自炊を幼いころから好きで長年やっており、家庭内で主に家事を担うことに抵抗がなかったことがもう一つ。

自分の親は共働きであり、配偶者が専業主婦になることは想定していなかったが、自分が主夫になることの可能性は頭の片隅にあった。

そんな形で結婚生活をスタートして10年以上たった今、妻の海外赴任に伴い専業主夫となる「駐夫」ライフを迎えることになった。これまでの期間、自分自身2度海外勤務・研修の機会を得たが、その時には子供がいなかったこともあり、妻は日本に残り、単身で渡航した。

今回、「駐夫」を決断した事情・理由は次の通り。

■家族で一緒に暮らしながら、妻のフルタイム環境を整える

妻の海外勤務と1歳半の子供の育児を両立させるために、育児・家事を行う人手が必要というのが出発点となった。日本の中を見ればワンオペで仕事と育児に向き合わざるを得ない人は少なくないだろうし、海外勤務に関しても、子供と配偶者を日本に残して単身赴任する人、更には子供を連れて渡航しワンオペでこなしている人もそれなりにいる。しかし我が家の場合は、今回の妻の海外勤務に際しては、家族全員で一緒に暮らすこと、そして妻がフルタイムで働ける環境を整えることに重きを置くことにした。

■同じ勤務地への転勤が困難

また、僕自身がパリを拠点に今の会社の業務を継続することが困難であったため、妻の海外勤務への随伴のためには専業主夫以外の選択肢がなかった。パリに僕の会社の支店自体はあるのだが、僕が働くためのポストがなく、またポストの余地がある他の欧州国の支店での勤務は子育て(保育園の送迎・家事)の観点から難しかった。なお、僕の会社に配偶者の海外勤務についていくための休職制度があったため、今の会社を退職せずに済んでいる。

■夫婦間での負担感の均衡化

小さい子供をきちんと育てながら、海外勤務をしたいというのは妻の希望であり、僕自身が自分のキャリアの継続に固執するのであれば、ワンオペを前提とした夫婦別居を追求していく道もあったかもしれないが、そこまでには至らなかった。

それは、家族生活とキャリアの両立における夫婦の負担感を均衡させる必要があるとの考えに至ったことが大きい。妻は過去に海外勤務の具体的な可能性が数度あったが、結婚及び出産のためにその機会を手放してきた。そんな妻が、育休復職後には海外赴任にトライしたいとの希望を示したとき、妻が後から自分の人生を悔いることがないようにこの希望を実現することが僕ら家族にとって重要と考えた。

加えて、妻の出産・育児休業の経験を間近で見ていて、女性が経験する出産・育児によるキャリアの断絶や、女性に偏りがちな育児負担について、具体的に認識し、問題意識を持つようになっていたことも大きい。僕も、妻の出産後に、産後休暇と3か月の育児休業を取得したが、これらの休暇・休業は自ら予見し、仕事とのバランスを見ながら長さや時期について計画的に取ることができた。一方、妻の方はというと、自分が今抱えている仕事の状況如何にかかわらず、産前休暇の開始により現職を離れなければならない状況であった。また、復職後も、保育園の送迎のために短時間勤務を選択し、短時間勤務で勤めあげられるポストで希望した。まだ1歳になったばかりの子供を保育園に長い時間預けるのは可哀そうだという彼女自身の想いによる選択ではあるが、夫婦が対等なパートナーであるという観点から考えた場合、出産・育児によるのキャリアへの負担は明らかに妻の方に重くのしかかってきた。そんな中、この負担を夫婦間で均衡させていくために、今回妥協するのは自分だ、と自然に思えた。

■キャリアの「モラトリアム」、職業人としての自信

では、自身のキャリアを中断することについて躊躇いがなかったと言えば決してそうではない。僕自身、数年前に管理職になり、ちょうどこれからマネージャーとしてのポストを経験するタイミングであり、職業人として最もエキサイティングな時期であることは間違いない。また、その先のキャリアも考えて、僕自身早いタイミングでのマネージャー経験を切望しており、その機会を逃すのはとても惜しい。また、現在想定している3年間のブランクが、その後のキャリアに及ぼしうる影響に対する不安もある。一方、40代に入り、このまま惰性で今のキャリアを進めることへの疑問があり、立ち止まって今後の人生をしっかり考えることも重要と考えていた。育児・家事というタスクはありつつも、今所属している会社という制約を取っ払って、自由に発想し、アクションできる立場は、豊かな人生を送る上で貴重な機会ではないか、とも。また、これまでの仕事を通じて自分が一端の職業人に成長している自負はあり、3年程度のブランクがあろうとも、その後キャリアを更に発展させていくことは十分できるという変な自信もあった。

また、些末なことながら、「専業主夫」や「駐夫」という肩書のレア・キャラ感も、自分の人生を語る上で「おいしい」ネタになるとの邪な考えもあった。

なお、僕の稼ぎがなくても家族3人が暮らしていけるという恵まれた状況にあるということも、専業主夫という選択肢がとれる大きな要因ではある。

そんなこんなで、専業主夫もありかなー、という感じで、最後は軽いタッチで決断した。

40代前半のおっさん。妻の転勤に伴い、会社を休職してパリに赴任。専業主夫として1歳半の子供の相手をしています。

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生き方
おっさん主夫、パリで生きる

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